MoTeC その他 コラム■三丁目のロータリー という連載■後編

三丁目のロータリーという連載 後編

 三丁目のロータリーは、ほとんどが自分が読みたい内容&自分がワクワクする内容だけを書いたため、思い入れ深い記事ばかり。
ロータリーエンジンの濃い内容に関しては、書いた時点で思い残すことの無い達成感がありました。

 そんな中で、執筆前後も含めて特に思い出深いのは、製作中にワイワイと盛り上がったり、お褒めの声を大量に頂いた時の物です。

 特に強く残っているのは3つ。
・排気音の話
・排気量計算の話
・連桿比の話
(順不同)
 この3回は、やりやがったな!的な声(たぶん褒めてる)が凄く多かったのも、思い出深いです。

●排気音の話。

 マフラーが奏でるサウンドは、時に自動車好き以外も魅了します。
…このように書くと、さも重要なのはマフラーのような気がしますが、根本たるエンジンに「良い音を出す素質」が無ければ片手落ち。

 この話は前半/後半の二部構成で書きました。
 前半は当時ほとんど言及されていなかった、レシプロのフラットプレーンとクロスプレーン(クランクシャフト)の「構造的な違い」と「音の違い」をセットで説明。

 フェラーリV8は最高の音なのに、アメ車や国産車のV8を直管にしてもドロドロ音になる原因の話と、ロータリーサウンドが素晴らしい理由を楽しく書いたので、レシプロ派にも刺さる内容。

 ずっと書きたかった内容だけど、噛み砕きに砕いて2ページに圧縮。
 半年くらい引っ張れるネタなのに、ペラッと読める程度に要約するのが三丁目のロータリー。
 ディーズクラブの志岐先輩にアドバイスを頂きながら書きました。

 ここで終わりではなく、後半は、日本一のマフラーサウンドエンジニアと名高いサクラムの宇野氏に伺った、「良い音とは何か」「良い音を造る方法」について解説しました。
 「これまで色々取材を受けてきたけど…彼は出入禁止、秘密が丸裸にされる(笑)」と、宇野氏から最高の褒め言葉を頂きました。本当に光栄。どこの部分が秘密の一端かは、バックナンバーを探して読んでみて下さい。

●排気量計算の話

 そもそもレシプロの排気量計算方法をチューニング業界の誰もが知っている理由は、ボアアップなりストロークアップという「排気量を変更する改造」が定番だからです。
 対するロータリーエンジンには、排気量を拡大する有効的なチューニングは存在しません。(マルチローター化は排気量変更の改造ではなくエンジンスワップに近い話になるため割愛)。
 「排気量を変更する改造」が存在しない。
 つまり、(僕の知る範囲には)誰一人ロータリーエンジンの排気量計算方法を「知識として知っている」人が居ませんでした(昔読んだ●●●●という本に書いてあった…は、何人も居ました)。

 一人だけ、佐藤商会の佐藤氏だけが、あの本に書いてあった式に数値を代入して必死で計算したレポートをお持ちでした。 
 しかし、どうしても部分的に僅かに数字が合わず「完璧に理解出来ていないのか式が間違っているのかも解らない」との事。
 
 ここは、尊敬する先生に聞くしかない!
 …という事で、高知県の松浦先生に御教示頂きました。
 松浦先生が青山学院大学の理工学実験室の講師だった頃に、スクートスポーツの小関氏と私で話を伺いに行った事があるのですが…
 マツダ社外で最も長くロータリーエンジンの研究をしている事、アペックスシール溝にセンサーを埋め込んでシールの傾きを実測した事、アペックスシールに掛かる背圧を実測した事など、それぞれの話が物凄いレベル。
 そして、ここには書けないもっと凄い研究の話や、もっと凄いレポートも見せて頂き、ロータリーエンジンの神髄に一番近い人かもしれない…と驚きました。
 
 そんな先生に伺った計算方法を誌面にドンと書いても、誰もが読み飛ばすに違いない。
 なので、レシプロの排気量計算と同じ(小学校の算数)レベルまで噛み砕く事に。
 だが、計算が間違っているのかイマイチ理解が追い付かず、確実に13Bの1ローターが654ccになるまで何度も計算。
 この際にとても世話になったのが、当時ディーズクラブ(編集プロダクション)で理系を卒業していた唯一の男、屶綱(ナタミ)氏。
 彼が必死で何度も計算を手伝ってくれたお陰で、間違いのない記事が書けました。

 おまけで「レシプロの平均ピストンスピード」に相当するアペックスシールの「平均速度」や
「9000rpm時の最高速度」
「9000rpm時の最低速度」
の計算式も記載しました。

 レシプロの場合、どんなに超高回転で回っていたとしても、ピストンは上死点と下死点で勢いを殺して往復します。
 対するロータリエンジンのローターは停止せず勢いよく回り続けるものの、クランク運動と組み合わさり、「アペックスシールの速度が一定ではない」事が特徴です。

 この最高速度と最低速度の計算式を一緒に記述した事で、レシプロ系チューニングの神様のような人から厳しい激励を頂きました。
 レシプロで超高回転を追求する場合、必ず計算するのが平均ピストンスピード。アペックスシールの速度が判ったことで、ようやくロータリーエンジンの高回転が理解できたそうです。
 個人的には、読んで頂いていたというだけで名誉。ご愛読感謝です。

●連桿比の話

 同一排気量のレシプロでも、ボアが大きくストロークが短いと(ショートストローク)高回転で有利。
 ボアが小さくストロークが長いと(ロングストローク)低中速で有利。
 …というのは、非常に有名な【ショートストローク神話】です。

 ただ、何でもかんでもショートストロークにすれば高回転で有利になる訳ではなく、セットで連桿比の事も考えないとダメですよ。
 …という、ショートストローク神話の【第二章】のような話。

 当時はまだ、連桿比について判りやすく解説した記事が少なかったので、判りやすくRB26やC30Aの数値を絡めて解説すると共に、ロータリーエンジンの素晴らしさについて言及しました。
 
 ロータリーエンジンの記事という意味では「まったく問題ない内容」でしたが、実はショートストローク神話には【第三章】があり、それを書かなかった事が心残りでした。
 ロータリーエンジンには関係無くても、レシプロ派の読者もたくさんいたため、申し訳ない気持ちで一杯。

…で、
 その申し訳ない気持ちを込めて、カーボーイクラシックという雑誌の「アタマでっかちチューニング講座」という連載に、心残りだったショートストローク神話【第三章】を全部書きました。
 カーボーイクラシックは3冊しか発行されませんでしたが、全3回で完全に書き切りました。

 高回転高出力時に超高速で上昇するピストンは「コンロッドに超高速で押された」状態です。ところが、上死点位置で砲丸投げのようにピストンを飛ばす訳ではなく、猛烈に加速したピストンはコンロッドに繋がったまま。
 慣性の力で飛んで行こうとする力に逆らってピストンをコンロッドが掴み続けるため、上死点ではコンロッドに伸びる方向の力が掛かります。
 この負荷が限界を超えるとコンロッドが千切れたり、メタルが焼き付いたり、コンロッドが伸びでピストンとバルブが接触するなどエンジンブローに至る訳ですが、同じ高回転でもピストンスピードを遅くするのがショートストロークで、機械的なフリクションロスを軽減するのが連桿比。
 
 それを一旦忘れて、素材や設計から見直して極限までピストンとコンロッドを超絶軽量化できた場合、「ショートストローク化できないからって●●m/sec以上の平均ピストンスピードはヤバい」ではなく、それ以上のピストンスピードを常用できるようになります。

 それが出来れば苦労しない…ではなく、実際に軽さと強度を両立して有言実行した、K-TECHの河島氏が実践する「大丈夫な理由」と「証明する数値」を詳細に解説しました。
 
 ロータリーエンジンではなく、レシプロのチューニング話ですが、あれを書かせて頂いたことで書き切ったけじめが付きました。
 「CARBOY Classics」で検索すれば中古で流通している物が入手できると思いますので、興味のある方は是非御覧になって下さい。