
MoTeCとは関係ありませんが「誰でもわかるMoTeC」繋がりの話。
Gワークスという雑誌で私が執筆していた「三丁目のロータリー」というロータリーエンジンの記事の事を書いておこうと思います。
連載終了から10年以上経ちますが、未だに単行本化して欲しいという要望や、●●年■▲月号について…と質問が来ます。とても有り難い事です。
あの連載を始めるに至るまでの話を(忘れる前に)書いておこうと思います。
私がチューニング雑誌を読み始めた中高生の頃は、構造から改造方法まで一貫して「理解してる」人が記事を書く事が多いレシプロと違い、ロータリーエンジンに関しては、なんとなくしかエンジンを理解していない人が書いているでは… と、思えるような記事ばかりでした。
当時は本屋に足を運んでもマニアックな専門書は少なく、ロータリーエンジンを深く知る術はありません。
それっぽい本を開いても「ロータリーエンジンの常識や詳しい解説」ではなく、「悪魔の爪痕」やら「カチカチ山」の話ばかり。
時はRX-7のFC3S前期が販売されていた頃。僕のように情報に餓えているロータリーエンジンのファンは少なからず居ましたが、渇きを癒やすレベルのロータリーエンジン解説書は存在しませんでした。
そんな頃、図書館で偶然出会ったのが、モーターファン誌の連載記事「兼坂弘の毒舌評論」でした。
ロータリーエンジンに関することはほとんど書かれていませんでしたが、読みやすく「もの凄い上から目線でズバズバ語る」面白さの中に、タイミングチェーンではなくタイミングベルトを使ったエンジンのダメな話や、リショルム(兼坂先生が命名)とミラーサイクルのエンジン効率の話など、無知な高校生が信者になる程度にハマりました。
それまで読んだ、どんな本よりも面白い…そんな衝撃が落ち着くと、次は「兼坂先生が駄目と書いている物でも、何か良い面があるからメーカーは採用したはず」と、別の角度から優劣を考える。
…そんな事を繰り返す中で、チューニングとは何かという回答に辿り着いた気がしました。
排気量を上げる、圧縮比を上げる、ブーストを上げる…という、単純明快なパワーアップではなく、「どれだけ充填効率や燃焼効率を向上させる事が出来るか」の追求こそがヘッドのチューニング。
部品精度の先にあるブレずに回る芯の追求こそ腰下のチューニング。
ざっくり、この二つこそチューニングの最重要な点である証拠に、トヨタや日産の作る燃焼室は、物凄いペースで進化していました。
腰下も、トヨタは純正でフルカウンタークランクを採用し、日産はクランクキャップをラダービームに。そしてさらに進化したブロック一体のクランクカバーを採用。
新型スポーツカーが発売されるたびに、エンジンチューニングの常識が世代交代するようでした。
驚異的なレシプロの進化に対して、「より効率の良い燃焼室」「ブレずに回す芯の追求」という面で、ロータリーエンジンは「時が止まっている」ように感じるほど進化が停滞しているように感じました。
ところが、ロータリーエンジンはチューニングの世界で独自進化をしていたのです。
私がチューニング雑誌で記事を書くようになり、日本各地を飛び回るようになると、各地のチューニングショップのエンジニアが「レシプロでは常識」となった「進化したエンジン設計」を参考に、真剣にロータリーエンジンをアップグレードさせている現場に直面しました。
「マツダが採用していない技術は作っても無駄」「とっくにマツダで研究済み」…という声も少なくない中、自分で試し、納得するまで諦めない。
レシプロに対し遅れている部分を、それぞれ独自の視点からのアプローチで向上させる姿に、心から感動しました。
そして、Gワークス誌が発足した際に始まったのが、私の執筆する「三丁目のロータリー」です。
「三丁目の~」というタイトルは私が決めたのではなく、編集部側が決めた物です(練りに練ったのか小馬鹿にしたのかは判りません)。
読み物を書く際は、キーとなるネタ(読んだ際に読者に刺激を与えるトリビア)を必ずひとつ決めて、それを軸に書くのが一般的です。
が、何万人も居る読者全員が知らないネタなど有るワケも無いため、本来であれば連載2~3回分のトリビアを1回に詰め込む勢いで執筆しました。
月刊連載は年間12本の記事を書かなければいけないため、ネタを出し過ぎれば自分の首を絞めてしまいますが、この連載では「3回分のネタを全部使い切った。来月どうしよう…」と、思うくらい盛り込んで書きました。
当時のチューニング雑誌全般の傾向は、免許を持ってない年齢の予備軍や初心者に向けた「わかりやすい内容」を…という方向で書かれることが多く、年長のマニアやプロに読んで貰えないという一面がありました。
しかし私は、若い世代の人口減や趣味の多様化から、実際は年長のマニアやプロに歓迎される内容にした方が、ファンの層や人口的にも迎合されるに違いないと考えていました。
長年自動車マニアをやっていれば、若い頃にロータリーエンジンが好きだった人も少なくないでしょう。
学生時代にカーボーイを読んで、難しいけど必死で理解しようとしたのが「楽しい思い出」の人は少なくないはず。
年長のマニアに向けた内容でも、学生時代の私達のように興味を持って楽しんでくれる若い世代は絶対に居るに違いない。そう、兼坂先生の連載が大好きだった当時の私のように。
そんな想いから、私が決めた方針は「レシプロと比較する」「初心者向けにしないが解りやすく」「続きは次回ではなく全部盛り込む」の3つでした。
確か創刊号で書いた内容は、ロータリーエンジンのサイドポートチューンやブリッジポートチューンの「サイドやブリッジって何だよ!」という直球の疑問に対して、レシプロで言う256度カムや272度カムと比べるとこうだ!…と、数字を交えて解りやすく比較しました。
ノーマルに対して開度がどのくらい変わるのか。
オーバーラップがどの程度変化するのか。
つまり「サイド」や「ブリッジ」という単語の数値化です。
Gワークスは売れ行きが好調だった事もあり、2号目以降は取材の依頼をすると「三丁目のロータリーですね、読んでます!!」と、取材先の反応も好評。
編集部の私以外の面々から、「どこに取材に行っても三丁目のロータリーの話題を振られるのがムカつく!」と真顔で言われる程度には、業界受けも良かったようです。
そんなこんなで、誌面のポジション的にはオートワークスの「~を科学する」の続編でしたが、私的には「長年読んでみたかった」念願の「ロータリーエンジンの濃い記事」。
心の中の兼坂先生に毎月毒舌でダメ出ししてもらいながらの連載でした。